企業と著作権~著作権侵害の防止策~リスクマネージメントコラム
監修記事
法律事務所アルシエン
清水陽平 弁護士
今回は「著作権」に関する2回目のコラムです。
前回のコラムでは、著作権の概要と著作権侵害のリスクについて、具体的な事例を交えて解説しました。
2回目では、著作権侵害を避けるために注意すべきことは何か、自社による著作権侵害をどう予防するのか、そして著作権侵害の可能性がある場合にどう対応すればよいかという点に焦点を当てます。
前回のコラムをまだ読んでいない方は、ぜひご覧ください。
目次[非表示]
- 1.著作権侵害を避けるためには
- 1.1.①素材の使用許可を得る
- 1.2.②フリー素材の利用
- 1.3.③ライセンス素材の利用
- 1.4.④引用
- 2.会社による著作権侵害を予防するためには
- 2.1.①社内教育の強化
- 2.2.②契約書をしっかりと作成
- 2.3.③著作権法についての情報収集を定期的に行う
- 3.著作権への完璧な対応は難しい
- 4.著作権侵害が疑われる場合の対処法
- 5.終わりに
著作権侵害を避けるためには
前回のコラムでも触れましたが、新聞記事やインターネット上の画像・音楽などは著作物です。私的使用の範囲であれば複製は可能ですが、その範囲は限定されています。基本的に、会社の業務内は私的使用の範囲にならないため、無断利用を行えば著作権の侵害にあたると考えましょう。
しかし、会社での資料作成などの際に、そうした著作物を利用したいと思う人も少なくないでしょう。そんな時は、以下のいずれかの方法であれば、著作権侵害を避けつつ、著作物を利用することができます。
①素材の使用許可を得る
資料作成などの業務で他社(者)の写真や記事を使用したい場合には、著作権者から許諾を得られないか確認してみてください。掲載されている著作権者への連絡先や、問い合わせページなどからメッセージを送ることができます。もし著作権者から許可が出なかったり、利用にあたっての条件を提示された場合は、必ず著作権者の意向に従うようにしましょう。
②フリー素材の利用
フリー素材については前回のコラムでも紹介しましたが、ネット上で無料配布されていて、自由に使用することができる画像や音楽等の素材を指します。フリー素材の代表的な配布サイトとしては「いらすとや」などが有名ですね。ただし、フリー素材だから何をしても良いというわけではなく、サイトの利用規約によっては素材の改変を禁止されている場合などもあります。フリー素材であっても、利用する場合は事前に利用規約をしっかりと確認しましょう。
なお、本来有料の素材を、第三者が勝手に「フリー素材」として登録しているケースもないわけではないので、画像検索をしてみるなどして、本当にフリー素材なのかの検証をした方が安全でしょう。
③ライセンス素材の利用
ライセンス素材とは、著作権者が権利の一部を譲渡したり、特定の条件の下でのみ利用を許可した素材を指します。ライセンスには、作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)の表示などの条件付きで利用を認めるクリエイティブ・コモンズや、料金を支払うことで繰り返し利用が可能となるロイヤリティフリーなどの種類があり、これらが適用されている素材を選択することも著作権侵害を避ける手段の一つです。なお、中には営利目的での利用を禁止するものもあるため、ライセンスの意味を理解し、適切に遵守することが重要です。
④引用
その他に著作物を利用する方法として、「引用」があげられます。引用とは、自身の文章の補足や説得力を高めるために、他社(者)の著作物を自身のコンテンツの中で紹介することです。引用は著作権の利用制限の例外であり、著作権者の許可を取らずに著作物を利用できる方法となります。
ただし、引用を行うためには、「公正な慣行に合致している」、「出典を記載する」などのルールが存在します。そのため、引用部分が明確にされていないとか、引用したい箇所が多すぎてコンテンツの主内容となっている場合は「公正な慣行に合致」していないとみなされます。
このような場合は著作権者の許可が必要となりますので、自身の引用が適切かどうか、第三者にダブルチェックを依頼するなどしてちゃんと確かめるようにしましょう。
会社による著作権侵害を予防するためには
ここまでは個人レベルでの著作権侵害を避ける方法についてご紹介しました。しかし、会社単位での著作権侵害を避けるためには、上記のような方法に加えて、社内で著作権侵害を防ぐための仕組み作りが必要不可欠です。そこで、ここからは社内での著作権の侵害を予防するための対策をご紹介します。
①社内教育の強化
著作権に関する知識は複雑であり、社員の裁量に任せてしまうと思わぬところで著作権の侵害が発生してしまう可能性があります。そうした事態を防止するため、社内教育の実施やマニュアルの作成を行うと良いでしょう。公益社団法人著作権情報センターのホームページのように著作権について丁寧に解説しているサイトも存在します。こうした情報を社内で共有するだけでも、社内の意識は変わってくるのではないでしょうか。
②契約書をしっかりと作成
著作権を巡るトラブルの中には、しっかりと内容が精査された契約書を締結しておけば避けられるものも少なくありません。
例えば、とある市が広報活動のため、作家にエッセイの作成を依頼。エッセイが好評であったことから、Webサイトへの掲載や、翻訳して英語パンフレットにも利用したところ、当初の目的以外での利用をしたとして作家側から苦情が入り、トラブルになったという事例も挙げられます。この場合、事前にネット上での配信や翻訳に関して許諾をもらえるよう契約書を作成しておけば、このトラブルは回避できた可能性が高いでしょう。
このように、著作物の利用に際しては、目的や手段をしっかりと考えた上で契約書を作成することが大切です。
③著作権法についての情報収集を定期的に行う
著作権法は社会の変化に伴って改正が行われています。例えば、2022年にはネット上での生配信に他社(者)の著作物が偶然映り込んでも違法にならない等の改正が施行されています。令和に入ってからも既に数度の著作権法の改正が行われました。こうした改正の要点を押さえ、著作権に関する知識を日々アップデートし、都度社内で共有することも、著作権の侵害を予防する上で大切と言えるでしょう。
著作権への完璧な対応は難しい
ここまで著作権侵害を防ぐために注意すべき点を説明しました。しかし、その上で知っておいてもらいたいことは、著作権の問題を完璧に防ぐのは非常に難しいということです。というのも、現在、著作権を含むあらゆる「権利」は非常にセンシティブな問題となっています。対策をしっかりと取ることはもちろん大切なのですが、過剰な対策が大衆の反感を買い、裏目に出てしまったというケースも存在します。
2014年8月に、テレビ局がスクープ動画を募集するサイトを開設したのですが、その利用規約に「投稿動画は無償で自由に編集・改変して番組で放映するが、問題が発生した場合の解決や賠償の責任は、投稿者が負う」といった規定がありました。テレビ局側としては著作権によるトラブルを回避するという意図があったのでしょう。しかし、この規定が多くの人に身勝手だと捉えられ反発を買い、サイトの開設日に炎上する事態となってしまいました。
また、現在ではSNSの発展により、誰もが世界中に向けて情報発信を行えるようになりました。その結果、実際には問題の無い事例に対して、一般人が「著作権侵害ではないか?」と指摘し、騒ぎが拡大する事態も起こり得ます。自社の著作権に関する知識をつけることと同時に、「世間にどう見られるか」という視点を意識することも必要不可欠です。
著作権侵害が疑われる場合の対処法
最後に、自社による著作権の侵害(の可能性)が発覚した場合の対応についてです。
著作物の無断使用が発覚した場合、迅速な対応が必要になります。自社内の関連部署と連携した上で冷静に著作権侵害が成立する可能性を調査し、可能性が高い場合は著作権者との交渉や、適切な許可の取得に動くようにしましょう。
また、可能性が低い場合でも、先ほども説明したようにネット上で「パクリ」疑惑が発生する可能性があり、炎上が発生して問題が大きくなる可能性も考えられます。そして、重大な著作権侵害の場合には、被害者が弁護士などの専門家と相談した上で法的措置などのアクションに踏み切る可能性も低くありません。冷静に状況を確認し、状況次第で専門家に相談することも検討した方がよいでしょう。
終わりに
今回は著作権に関するお話を2回に分けて行いました。著作権という聞き馴染みのある言葉がかなり奥深く、複雑なものであることを少しでも理解いただけると幸いです。
著作権をしっかりと意識し、正しい宣伝活動を行っていきましょう。
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