「非がない炎上」について(1)~リスクマネージメントコラム~
炎上は、企業に何か過失があるから起こると思われますが、企業が悪くなくても炎上することがあるのをご存知ですか?※ここでは、ネガティブな投稿が殺到することを「炎上」と定義します。
目次[非表示]
- 1.炎上のタイプ
- 2.コラムの予定
- 3.デマや誤情報による炎上への対応フロー
- 4.失敗事例
- 4.1.コオロギ製品批判(2023年)
- 4.1.1.企業の対応と消費者の反応
- 4.1.2.なぜ失敗したのか?
- 4.1.3.どうすれば良かったのか?
- 5.成功事例
- 5.1.トイレットペーパー買い占め騒動(2020年)
- 5.1.1.企業の対応と消費者の反応
- 6.デマや誤情報による炎上への反論のポイント
- 6.0.1.何が問題となっているか把握する
- 6.0.2.反論をすると決定した場合は、証拠がそろい次第、すぐさまコメントを出す
- 6.0.3.「法的措置」を安易にかざさない
- 6.0.4.きちんとした場所でコメントを出す
- 6.0.5.メディアを意識する
- 6.0.6.影響が及ぶ範囲を把握する
- 6.0.7.毅然とした態度で臨む
炎上のタイプ
弊社では、そのような炎上を「非がない炎上」と呼んでおり、下記の3つのタイプがあると考えています。
1.デマや誤情報による炎上・・・最近は陰謀論者など、勝手な憶測によるものも多い。
2.非実在型炎上・・・炎上ではないのにメディア等が「炎上」と騒ぎ立てることで作られてしまう”炎上”。ジェンダー、子育て関連において発生することが多い。
3.客テロによる炎上・・・客の迷惑行為により引き起こされる炎上。飲食業界で発生することが多い。
いずれも最近たびたび発生しているため、すぐに事例が思い浮かぶ方も多いかもしれません。
こういった炎上は企業側に非がないとはいえ、通常の炎上と同様に企業価値や評判を大きく棄損する可能性があります。
つまり、非がないからと言って何もしないと、企業が大きなダメージを受けてしまうことがあるのです。(詳しくは、前回のコラムをご覧ください)。
現状、炎上の対応方法に関する本やネット記事は多数見かけますが、ほとんどは従業員の不祥事などといった企業側に「非がある炎上」についてのもので、「非がない炎上」にフォーカスしたものはあまり無いように思います。
そこで本コラムでは3回に分けて、非がない炎上に対応(反論)する場合、どのような行動をとるのが良いか、失敗/成功事例をもとにそのポイントを探っていこうと思います。
コラムの予定
1回目:デマや誤情報による炎上への反論(今回)
2回目:非実在型炎上への反論
3回目:客テロによる炎上への反論、まとめ
デマや誤情報による炎上への対応フロー
1回目は、デマや誤情報による炎上への反論について考えてみたいと思います。
以下は、デマや誤情報による炎上が発生した場合の対応フローです。
企業活動に大いに影響が出ると判断される場合、反論を行なうべきです。
なお、反論するにあたっては「客観的な証拠」が必要です。これが無ければ混乱している人たちを説得させることは難しくなります。
次に、実際にあったデマや誤情報による炎上に反論した企業の失敗/成功事例を見てみましょう。
失敗事例
コオロギ製品批判(2023年)
食品メーカー(A社)は数年前より食用コオロギを使用したシリーズを展開しているが、 “昆虫食推し”に対する不信感や反発のムードが2023年に入り一気に高まったことから、同社にも目が向けられ炎上した。ネット上では、「政府が嘘の食糧難を煽っている」、「国がコオロギ事業に6兆円を出資」、「有害物質が含まれている」、「コオロギに体を操られる」等の憶測やデマ、陰謀論といった情報が飛び交い、不買運動が呼びかけられる状況となった。また、スーパーで割引シールが貼られた売れ残り商品の写真を載せ「不買運動が始まっている」などと印象操作を行なう投稿も見られた。
企業の対応と消費者の反応
→ 炎上がピークに達した翌日には、他の商品は別のラインで製造しているためコオロギパウダーが混入する可能性はないこと、他の商品にコオロギパウダーを使用する予定はないこと、アレルギーへの注意喚起、コオロギの飼育環境の説明をシリーズ商品のWEBページに掲示した。
→ しかし、「問題はそこじゃない」、「昆虫食の安全性が証明されていない」、「これだけ反発の声があっても続けるのか」等、消費者の反発の声は収まらなかった。
→ 加えて、A社にコオロギを提供している提携企業が、根拠のない風評の流布に対しては法的措置も検討するとの声明を発表し、反感を買った。A社はメディアの取材に対して「弊社としての回答は差し控えさせていただきます」とした。
なぜ失敗したのか?
→ 情報の分析不足により、消費者の求める回答がなされず、納得させることができなかった。
→ 今回の場合、「何故わざわざ昆虫を食べなくてはいけないのか」という、批判の根幹部分に回答がなされておらず、反論をしても批判が収まらなかった。
→ また、反論した内容に関しても客観的な根拠が示されていないため、信用が得られなかった。
→ 提携企業の「法的措置を取る」という、けん制するような対応が火に油を注いだ。
→ お知らせの掲載や取材への回答が無く、会社のメッセージを伝えようとする姿勢が見られなかった(コソコソしている印象を与えた)。
どうすれば良かったのか?
→ SNS上で書かれている情報を分析して、何が問題とされているのか正しく認識する。
→ 提携企業とも対応をすり合わせる。
→ 不安から生まれた風評に対しては、「法的措置を取る」等のコメントは行わない。
→ 非がないのであれば、根拠を持って堂々とWebサイトの「お知らせ」などで反論する。
成功事例
トイレットペーパー買い占め騒動(2020年)
「新型コロナの影響で原材料が輸入できなくなるためトイレットペーパーが品薄になる」とのデマが拡散。すぐにデマを訂正する投稿が拡がったものの、今度は「デマを信じた人が買い占めに走るかも」と懸念した人々により買い占めが発生した。この事態を鎮静化するため、静岡県の製紙メーカー(B社)がTwitterで積極的に情報発信をし続けた結果、混乱が解消され、多くの賞賛を浴びた。
企業の対応と消費者の反応
→ B社はTwitterで「当社倉庫には在庫が潤沢にございますので、ご安心ください!今後も通常通り、生産・出荷を行なっていく予定です」と在庫写真を掲載し、消費者に安心感を与えた。
→ この後、WEBやテレビなどの複数メディアがこれを取り上げたことでより広く認知されることとなった。
→ 一方で、「なぜこれだけ在庫があるのに店頭にはないのか」との声もあがった。
→ このような反応を受け、同社は出荷している様子も写真や動画で投稿した。
→ 輸送用トラックにも限りがあり物流が間に合わない状態であったが、小売り大手のC社が輸送用トラックを手配し、より多くの量をC社の各店舗へ行き渡らせた。
→ 山積みになったトイレットペーパーと「おひとり様10点まで」の掲示をしたC社店舗の写真がTwitterで拡散。消費者に更なる安心感を与えた。
→ これについて「B社とC社の本気を見た」など、称賛の声が多くあがった。
→ 加えて、騒動中、B社はTwitterで小売店の販売員に向けても「いつもお客様からの問い合わせなど丁寧にご対応頂き、ありがとうございます!」といったメッセージを発信するなど、影響を受けている各方面への配慮を見せており、これにも好感が持たれた。
どのような点が良かったか?
→ 消費者の不安や疑問の声を的確にキャッチ し、写真などの納得させる証拠を示しながら、消費者に一貫したメッセージを発信し続けた。
→ ツイートが話題を呼び、メディアに取り上げられたことで、さらに情報を拡散することができた。
→ 小売り大手のC社と物流面で協力し合うなど、イレギュラーな状況にも柔軟に対応した。
→ 輸送ドライバーや小売店の販売員にも配慮を見せるなどしており、B社は騒動の影響が及ぶ範囲を把握していた。
これらの事例から、デマや誤情報による炎上に反論する際は、次の点がポイントになります。
デマや誤情報による炎上への反論のポイント
何が問題となっているか把握する
→ ネット上の書き込みを分析し、何が問題となっているか的確に把握し、反論に備える。
反論をすると決定した場合は、証拠がそろい次第、すぐさまコメントを出す
→ 証拠を示さなければ消費者は納得せず、騒動は収束しない。
→ また、デマや誤情報の拡散を最小限にするため、スピード感が大事。
「法的措置」を安易にかざさない
→ 不安から生まれた風評に対しては、「法的措置を取る」などのコメントはけん制と捉えられ反感を買うことにもなる。
→ 明らかに悪意が見えるものに対しては法的措置を検討する。
きちんとした場所でコメントを出す
→ 非がないのであれば、堂々とWebサイトのお知らせやプレスリリースなどで反論する。
メディアを意識する
→ 話題になればメディアに取り上げられ、注目を浴びることを認識する。
→ 一方で、対応を間違えれば、それが記事になり、さらに炎上するという悪循環に陥ることも考慮しておく。
影響が及ぶ範囲を把握する
→ 取引先など関係各所にクレームが向かう場合があることも認識し、対策する(取引先に炎上の状況を共有する、責任の所在や問い合わせ先を明示する等)。
毅然とした態度で臨む
→ 非がないのであれば、一貫性を持ってしっかりした態度で対応する。
次回は、「非実在型炎上」における反論のポイントを探っていきます。
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