「非がない炎上」について(3) ~リスクマネージメントコラム~
最終回となる今回は、「客テロによる炎上」への対応についての考察と、これまでの総括を行ないます。
初めてご覧になる方は1回目のコラムから読んでいただくことをおすすめします。
非がない炎上コラム一覧
1回目:デマや誤情報による炎上への反論
2回目:非実在型炎上への反論
3回目:客テロによる炎上への反論、まとめ(今回)
客テロとは?
「客テロ」とは、客による迷惑行為を指します。特に飲食業界での発生が多く、大手回転ずしチェーンで客が卓上の醤油ボトルを舐めるなどする動画が炎上したのはご存知の方も多いと思います。この炎上は、少なくとも次のような影響を及ぼしました。
・ 売り上げ減少
・ 株価下落
・ ブランドへの信頼性の危機
・ ビジネスモデル崩壊の危機(回転レーンの使用中止)
・ コストの増加(アクリル板設置、裁判費用etc.)
・ 従業員の負担増加(洗浄・消毒作業、問い合わせ対応etc.)
これほどの影響があると、企業に非が無いとしても世間に対して何もコメントを出さない(静観する)わけにはいきません。では、どのように対応(反論)すれば良いでしょうか。
客テロによる炎上の対応フロー
下は、客テロによる炎上が発生した場合の対応フローです。
客テロの発生により、先述のように企業活動に大きな影響が出ると判断される場合、反論を行なうべきです。
特に、飲食店での不衛生行為による炎上は、再発防止策を提示しなければ消費者の不安を取り除くことができないため、「静観」の選択肢はほぼ無いと考えて良いでしょう。
次に、実際に反論した企業の例を見てみましょう。
ここでは”成功事例”とされる、先述の大手回転ずしチェーンの対応を取り上げたいと思います。
事例
■回転ずしチェーンにおける迷惑行為(2023年)■
大手回転ずしチェーンA社のある店舗にて、客の少年がテーブルに備え付けの醤油ボトルや湯呑みを舐めまわしたり、唾を付けた指でレーンの寿司を触ったりする様子を撮影した動画がSNS上で拡散し、炎上した。その後、SNS上ではガラガラの店内の画像が投稿されるなど客足に影響が出ている様子が見られたほか、親会社の時価総額が一時168億円下落した。
企業の対応と消費者の反応
→ 炎上発生後、消費者からは「損害賠償を請求すべき」など、厳正な対処を求める声が多く挙がった。
→ A社がHP上にお知らせを掲載。「お客様が不快な思いをするのは⼤変遺憾」として、発生した時期・店舗の特定を進めていること、警察に相談しながら法的措置を検討することを表明した。
→ それから2日後、続報を掲載。当該店舗を特定し洗浄作業などを行なったこと、被害届の提出、本人と保護者が謝罪に来たが引き続き厳正に対処すること、防止策を公表した。
→ 消費者からは、被害届の提出と法的措置の検討という対応に納得する声が寄せられた。
→ 一方この間、SNS上では飲食店における迷惑動画の告発が相次いで発生した。
→ A社はこの情勢を鑑みて、全国的に店舗の運営方法を変えることをHP上で発表。その中に記された「今私たちができる 精一杯のこと」という率直な言葉は、複数のメディアに取り上げられ、消費者の同情を誘った。
→ また同時期、新たに判明した別の迷惑動画に対しても厳正に対処すると表明した。
→ そのころSNS上では「#A社を救いたい」のハッシュタグと共に食事風景を投稿する動きがインフルエンサーを中心に拡がった。
→ この動きに社長が反応。公式X(旧Twitter)を通して「涙が出るぐらい感謝の気持ちでいっぱい」と述べた。また、メディアがこれを取り上げ、A社を応援するムードは一層高まった。
→ 炎上から半年後、A社が少年に約6700万円の損害賠償を求め提訴していたことが判明したと報道。A社はこの件にコメントは出さず、取材にも「個別案件のため回答は差し控える」とした。
→ 賠償金額について消費者の中でも賛否が分かれたが、妥当だと考える賛成派がほとんどであった。
どのような点が良かったか?
→ 比較的早期の段階で「厳正に対処する」というスタンスを示し、消費者に発信した。
→ また、毅然とした態度と対応で消費者に納得感と安心感を与えた。
→ 事案の把握、対応、防止策など、消費者が気になる情報を適宜発信し、炎上がより過熱するのを抑えた。
→ お知らせの文末で企業理念を元に努力することを都度伝えた
→ 自社を応援する声に対して社長名義でメッセージを出した(話題性、風通しの良い印象)
→ 「今私たちができる 精一杯のこと」「涙が出るぐらい感謝」といった率直なメッセージが消費者の感情を揺さぶった。またメディアにも取り上げられ、より情報が認知されることとなった。
客テロによる炎上への反論のポイント
① コメントは早めに出す
→ 炎上に参加している人は、加害者が制裁されることを望んでいるため、早い段階で企業が対応を表明すれば、これ以上過熱するのを多少抑えられる
②毅然とした態度で臨む
→ 「お客様にはご心配をおかけし、申し訳ありません」など、不必要にへりくだる必要はない(被害者側である企業に謝罪を求める声もない)
→ 非は無くても謝罪するという風潮は減ってきている(炎上のタイプによっては、謝罪なしの毅然とした態度が評価されることもある)
③消費者の声を認知し、呼応する(消費者とのコミュニケーション)
→ 「厳正に対処すべき」と考える消費者は多くいるため、被害届や法的措置などを取る場合は、公表した方が納得感、安心感につながる
→ 炎上の渦中にあっても、それ以外の情報を見落とさないようにする
④ メッセージの一貫性を保つ
→ あらゆる機会を通じて一貫したメッセージを配信していく(A社の場合、お知らせの文末で企業理念を元に努力することを繰り返し伝えた)
→ 毅然とした態度でありながら、被害者スタンスは取らない(深追いしすぎると加害者に同情が向く場合もある)
まとめ
最後に、3回にわたりお伝えしてきた「非がない炎上」についての総括を行ないたいと思います。
まず、非がない炎上に対しては以下の考え方をします。
・非がないからと言って何もしないと、大きなダメージを受けてしまうことがある
・企業活動に大いに影響が出ると判断される場合、静観せず反論を行なう
・反論する場合には、「客観的な証拠」が必要
次に、非がない炎上に反論する場合のポイントです。
これまで「デマや誤情報による炎上」「非実在型炎上」「客テロによる炎上」、それぞれのタイプにおけるポイントをお伝えしてきましたが、共通するのは以下の3つになります。
・消費者の声を的確に把握する(WEB上の書き込みを分析する)
・毅然とした態度で臨む(非がないのなら謝罪は必要ない)
・メッセージの一貫性を保つ
非がない炎上が起きた際、どうするべきか迷っても、これらを押さえておけば自ずと方針は見えてくるのではないでしょうか。
私たちは日々たくさんの炎上事案に触れながら、このような分析を行なっています。今回の分析が皆様の新たな気付きになりましたら幸いです。
本コラムはこれで終わりとなります。ご覧いただき、ありがとうございました!
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