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企業と著作権~著作権の基本と炎上事例について~


記事 監修
法律事務所アルシエン
清水陽平 弁護士

「著作権」という言葉は誰もが一度は耳にしたことがあると思いますが、その意味と範囲は時代と共に大きく変化しています。かつて企業の広報担当者が注意すべき主な著作権といえば、新聞や雑誌などの紙媒体の記事が真っ先に思い浮かんだでしょう。しかし、ネットの普及で誰もが気軽に情報発信を行えるようになり、注意すべき著作権の対象は大きく広がりました。SNSやブログ、掲示板をはじめ、ネット上には誰かが発信した情報があふれ、そうした何気ない情報にも著作権が発生しています。こうした情報を無断で使用してしまうと著作権の侵害を問題視され、企業のブランドイメージに傷がつくことも少なくありません。

このコラムでは、そんな「著作権」について
「そもそも著作権とは何か」
「実際に問題となった事例はあるのか」
「どのような点に注意を払うべきなのか」

といったことを、2回に分けてご紹介していきます。

1回目:著作権の概要と問題になった事例
2回目:著作権の注意すべき点と対応策

なみに、最近では生成AIの著作権問題も大きな注目を集めています。こちらは前回のコラムにて取り上げていますので、宜しければそちらもご覧ください。

目次[非表示]

    1. 0.1.著作権とは
    2. 0.2.著作権侵害によるペナルティ
    3. 0.3.著作権侵害が問題となった事例
      1. 0.3.1.①化粧品メーカーの公式SNSアカウントによる盗用の事例
      2. 0.3.2.②鉄道会社の子会社による無断での画像利用事例
      3. 0.3.3.③アパレルブランドの商品デザインが他作品に類似していた事例
      4. 0.3.4.④鉄道会社による新聞記事の社内イントラ掲載事例
    4. 0.4.まとめ


著作権とは

「著作権」とは、人間の創造的な活動により生み出された文化的な創作物である「著作物」を保護するための権利です。
簡潔に言うと、思想や感情を創作的に表現したものが著作物とされており、例えば個人が趣味で作った歌や、小学生の作文も著作物となります。著作物の種類には文章や音楽、美術、建物、地図などがあり、広範な創作物が対象になっています。こうした著作物が無断で他人にコピーされたり、販売されることを禁止してくれているのが「著作権」なのです。なお、著作権には登録制度などはなく、創作と同時に著作者に対して自動的に発生するものとなっています。

著作権侵害によるペナルティ

では、著作物を無断で利用して著作権を侵害した場合にはどのようなペナルティがあるのでしょうか?
著作権に関する法律である「著作権法」では、違反行為をした人については、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされており、さらに企業などの法人等が侵害を行ったといえる場合、法人等に対して3億円以下の罰金刑とする旨が規定されています。
※2023年12月現在。著作者人格権侵害、実演家人格権侵害は除く。
 
また、主要なSNSであるX(旧Twitter)やInstagramでは、著作権侵害にあたる投稿は表示制限の対象になったり、削除される可能性があることを公表しており、繰り返し著作権侵害が行われる場合にはアカウント凍結もあり得ます。
つまり、企業が著作権を侵害した場合、罰金の課徴や情報発信手段の減少といったペナルティが考えられます。さらに、現在はネット上に個人が様々なコンテンツを投稿するようになったことから、一般の人々の著作権侵害への見方はより一層厳しくなっています。著作権を侵害すると、「著作権を侵害した企業」というイメージが広まり、ブランド価値の損失につながる可能性もあると言えるでしょう。とても「知らなかった」では済みませんね。

著作権侵害が問題となった事例

それでは、実際に企業による著作権の侵害が問題となった事例をいくつか見ていきましょう。

①化粧品メーカーの公式SNSアカウントによる盗用の事例

とある化粧品メーカーの公式SNSアカウントの投稿が盗用ではないかと話題になりました。当該投稿は、ある商品を使用した場合とそうでない場合の頭髪の変化を画像付きで比較するものでしたが、その投稿の本文が第三者の個人投稿と同様の内容であり、盗用であったことが発覚しました。本件について、同社は盗用であったことを認め、公式サイトにて謝罪を行っています。その後、SNSアカウントも閉鎖する運びとなりました。なお、同社は当時SNSアカウントの運用を広告代理店に依頼していたことから、ある意味では被害者であったと言えますが、「コンプライアンス部門はないの?」などの批判の声が寄せられています。
SNSによる短文投稿が著作物として著作権の保護を受けるかは内容次第ですが、著作権侵害が疑われる発信により、情報発信チャネルの減少と企業イメージの低下を招いた事例と言えます。

②鉄道会社の子会社による無断での画像利用事例

本件は、自身が撮影した写真を無断でポスターに利用されたとして、撮影者の男性が鉄道会社と、ポスターを作成したその子会社に訴訟をした事例です。子会社が作成したポスターは、男性がネット上で公開していた複数の列車を撮影した写真を加工して作成されたものでした。自然風景や街の風景そのものには著作権はないため、ポスター制作者は電車の写真も著作権がないものと考えていたのかもしれません。しかし、男性の写真はより良い写真になるよう構図や撮影角度が考えられたものであり、裁判では著作物として認められています。その結果、裁判では子会社に賠償金の支払いを命じる判決が下されました。

③アパレルブランドの商品デザインが他作品に類似していた事例

あるアパレルブランドから発売された複数の商品が、社外のイラストレーターの作品と酷似したデザインであったことから、著作権侵害の疑いがあるとして該当商品の販売が停止される事態が発生しました。
ネット上には画像などを無料で配布するいわゆる「フリー素材サイト」が存在しています。「フリー素材は自由に利用しても問題ない」と考える人は少なくないでしょう。問題となった企業のデザイン担当者も、このフリー素材サイトの素材を参考にデザインを考案しており、同サイトの利用規約には素材をそのまま商用利用してもよいと記載がありました。
しかし、利用規約を更に詳細に見ると、素材の模様単体を利用したり、販売することは禁止する旨も併せて記載されていたのです。つまり、当該サイトに掲載された素材の模様のみを利用した商品は、同サイトの利用規約に違反しており、また素材提供者の許可がない状態での利用であることから著作権の侵害にも該当していたのです。
例えフリー素材サイトであっても、安易な利用は著作権の侵害につながってしまうと言えるでしょう。

④鉄道会社による新聞記事の社内イントラ掲載事例

こちらは、とある鉄道会社が多数の新聞記事をデータ化し、従業員が自由に閲覧できる社内イントラに掲載していたことが問題視され、裁判に発展した事例となります。
新聞記事は単に事故などの事実のみを記載したものであれば著作物に該当しないとされていますが、記者が調べた情報を基に独自の観点で記載した記事には表現上の工夫があると言えることから、著作物として扱われます。そのため、本件では著作権のある記事を勝手に複製(データ化)し、多数の社員が閲覧できる状態にした(公衆への送信)ことが著作権の侵害にあたるとして、裁判所は鉄道会社に損額金の支払いを命じる結果となりました。
このように、自社に関するニュースを社内のイントラで掲載することも著作権の侵害にあたります。もし社内で記事の共有などを行いたい場合は、次回ご紹介する「引用」などの方法を取った方が良いでしょう。

まとめ

SNSでシェアする一枚の写真、リポストする一つのミーム、さらには公式サイトで掲載する一節の文章に至るまで、全てに潜在的なリスクが内包されています。企業は、自社の広報活動において常に著作権を意識し、適切な対策を講じる必要があると言えるでしょう。
次回は、そんなデリケートな問題である著作権について、侵害するリスクを低減させるための対策や、自社の著作権を守るための方法についてご紹介します


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